怖いものは怖いのだから仕方ないと
放鳥時間はもう5分でいいですと心に決め
ケージの中では安心して
掌で気持ち良く眠ることりお嬢さんを
ゆっくり入り口からそのまま出してみます
《え、ちょっと待って、そこ?》
と言いたげな、緊張が走り始め
ふんわりと広がっていた羽毛も
全身が凍り付くほど閉じて、すぐさま硬直します
現世から冥界へと連れ去られる、末期の門をくぐるかのように
恐ろしいその境目を通る瞬間から
掌のことりお嬢さんの、可憐な細い脚は
ブルブルと小刻みに震え始め
心臓が飛び出すほどに不規則に早鐘を打つのが
絶え間ない振動で伝わって来ます
これは、曲が出来ないのに本番を迎えてしまった
音大生のごとく、極度の緊張を伴う絶望
真っ逆さまに滑落する進級
親の激怒と、多額の学費の交渉のめくるめく地獄がよぎる
若き青春の緊張
(その割に、外に出てしまうと指の皮膚をむしったり
口をつついてきたりして少し慣れました)
Satomi
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